ハキリアリは、キノコを育ててその菌を収穫して生きている蟻ですが、植物の葉等を巣に持ち帰って、それを巣の中で育てている菌(特殊なキノコ)の養分として与えています。

しかし、キノコは高温多湿を好みますので、キノコを培養する部屋の管理は大変です。油断をしていると直ぐに他の菌類等がはびこってしまうでしょう。

ハキリアリは、よそ者の菌類を見つけると直ぐにそれを排除したり、作りたての菌園には、栽培する菌糸を植え付けたりして、常にキノコ菌園を維持するための努力をしています。しかしこれだけでは、キノコ菌園を衛生的に保ち続けるのは難しいと思います。

では、どのようにしてハキリアリはこの難問に対応しているのでしょうか。それに対する有望なこたえが1970年に発見されました。

それは、ハキリアリ属のチャイロハキリアリの後胸側板線(こうきょうそくばんせん)から微生物の機能や成長をこばむ物質が作られていることが発見されたことです。

この後胸側板線は胸の後ろに左右1つずつついていて、細菌の増殖を抑える働きをする「フェニル酢酸」や、よそ者の菌の胞子の発芽を妨げる働きをする「ヒドロキシデカン酸」を作っています。さらに、栽培するキノコ菌の成長を促す「インドール酢酸(植物ホルモンの一種)」も分泌していることが判りました。

また、最近ではトガリハキリアリ属のアクロミルメックス・オクトスピノススの後胸側板線を詳しく調べた結果、新たに20種類もの化合物が確認されたそうです。

このような後胸側板線の働きがあるため、高温多湿の巣の中は衛星状態が保たれていたのです。

そして、ハキリアリは、キノコ菌園を弱酸性(ペーハー5)に保つことで、病原体や寄生菌が入ってきても、それらが繁殖できないように抑えこんでいたのです。

それは、弱酸性にすると栽培しているキノコ菌には最良の環境になりますが、侵入する病原菌などには害になるためです。尚、実験的に巣からハキリアリを取り除くと、数日で強酸性化してしまって、寄生菌や細菌が増えることが確認されています。

後胸側板線から分泌される物質には様々なものがあって、キノコ菌園を衛生的に保つ働きをしていますが、その中でも最も強い働きは、キノコ園に持ち込まれた葉のペーハーを強酸性から弱酸性にすることだと思われます。