もう随分昔ですが、実家の裏庭にはイチジクの木がありました。そしてイチジクの実は毎年食べきれない程実ったことを覚えています。

イチジクは漢字で書くと「無花果」と書いて、花は咲かないのに果実をつけるのかとも思ってしまいそうです。

多分、目には見えにくい形で花が咲くのだろうと考えていましたが、実はイチジクの実の中に花がありました。イチジクの実のようなものは、専門用語では「花嚢(かのう)」というものでした。

最近ではイチジクの実は、スーパーマーケットなどでも販売されているため、見る機会もあると思います。

イチジクの実は、先端の中央付近が穴のように割れていて中には、もじゃもじゃした毛のようなものが見えます。実は、このもじゃもじゃしたものがイチジクの花でした。

イチジクの雄と雌の木

イチジクには雄の木と雌の木があります。
そういう植物は他にもあります。

多分、実がなるのがメスの木で、実がならないのがオスの木だろうと思いましたが、イチジクの雌雄の木は両方とも実を付けるというのです。

(すみません、正確には実をつけるのではなく、実のようなものを付けるが正しい表現です)

その理由は、イチジクの花粉を運んで受粉の手助けをしてくれる小さな虫との駆け引きの歴史から生まれたもののようです。

イチジクの受粉方法

イチジクの受粉方法を知るには、野生のイチジクであるイヌビワと呼ばれる木の実を調べると理解しやすいようです。

イヌビワは、西日本の山野などには普通に見られる植物ということですが、私は関東のため全く知りませんでした。

この、イヌビワを採ってきて、半分に割ると小さなハチ(イヌビワコバチ)が、いっぱい出てきます。このイヌビワコバチは、イチジクの受粉・交配の手助けをする昆虫でした。

調べてみると、イチジクとイヌビワコバチはお互いに無くてはならないものですが、その関係は、かなり緊張感のあるものでした。

イヌビワコバチの産卵

春から初夏にかけて、イヌビワコバチの幼虫は、オスのイチジクの実の内部で羽化します。

この時、少しだけメスよりも先に生まれるオスは、メスが羽化するのを待ちかまえていて、イチジクの実の中で交尾をします。

その後、メスは、別のイヌビワの木(イチジクの一種)の花嚢(かのう)をめがけて飛び立ちます。

オスは、イチジクの花嚢(かのう)の中から脱出孔を広げるなどして飛び立つメスの手助けをした後で生涯を閉じます。

メスは、周囲にある別の木の花嚢(かのう)の中に入って、雌花の花柱に産卵管を入れて、子房に産卵します。その後で身につけてきた花粉をメシベにつけて受粉させ、花嚢内で死んでしまいます。

イヌビワコバチの幼虫の行動

子房内に産み付けられた幼虫は、産み付けられた場所(花)を虫こぶ化して、植物の栄養を取りながら、翌年の春の羽化を目指して成長していきます。

しかし、これはイヌビワ(イチジクの一種)にとっては、とんでもないことです。これでは、イヌビワコバチの子孫を作る手助けをしているだけで、自分たちの子孫は育ちません。

ところが、イヌビワ(イチジクの一種)は、これに対抗することを考えていました。

イヌビワ(イチジクの一種)が考えた凄い仕掛け

イヌビワ(イチジクの一種)には、オスとメスの木があり、そのどちらにも(花嚢)があります。そして、その中には雄花と雌花もあります。

そのため、イヌビワコバチは、オスの木か、メスの木かを判別しないで産卵してしまいます。

ところが、イヌビワ(イチジクの一種)のオスとメスの木では、花柱の長さが異なっていて、花柱の長いメスの木では、イヌビワコバチの産卵管が子房に届かないようになっていました。

このように、イヌビワ(イチジクの一種)のオスの木では、花嚢(かのう)はできますが、子孫を残すための実はできません。しかし、メスの木では、イヌビワコバチの受粉・交配によって、しっかりと実をつけていたのです。

彼らの関係は、かなり複雑ですが、長い年月をかけて作りあげたものだと思います。植物と小さな虫たちの共生も生きるか死ぬかの、切羽詰まったところから出来ていることが良く判りました。