ヒナゲシの花

5月から6月のさわやかな日に、風に揺られるヒナゲシの花は可愛らしい。透き通るような花弁は涼しさを運んでくるようで、初夏にはぴったりの花です。

ヒナゲシはヨーロッパ原産の花で、野生種として多いのは赤色ですが、観賞用として栽培されているものには、赤色、桃色、白色などがあります。

このヒナゲシにはさまざまな別名があって、それぞれ逸話がありました。しかも「虞美人草(ぐびじんそう)」はヒナゲシのことでした。

今回は、グビジンソウの逸話や、薬草としてのヒナゲシのことなどをまとめて紹介します。

グビジンソウの逸話

紀元前200年ごろの古代中国(三国志の時代)では、楚(そ)の項羽(こうう)と漢(かん)の劉邦(りゅうほう)が戦いに明け暮れていました。項羽の軍勢は残り少なく傷つき、食料も底をついていて、劉邦の大軍に包囲されていました。

項羽には、いつもいっしょにいてくれた、虞姫(ぐひ)と呼ばれる妻(愛人?)がいましたが、戦況を見て、もはやこれまでと思った項羽は、別れの宴を開いて出撃していきます。

この時、虞姫(ぐひ)も自刃(じじん)してしまいますが、その墓には可憐な深紅の花が咲きました。そのため、中国では、虞美人(ぐびじん)が流した血から生まれたという伝説が生まれました。この伝説から、この花を虞美人草(グビジンソウ)と呼ぶようになったと言われています。(虞美人とは、虞姫のことです)

ちなみに、ヒナゲシを漢字で表すと「雛罌粟(ヒナゲシ)」と書きますが、この「雛」には、小さくてかわいらしいという意味があります。きっと、項羽が愛した虞姫(ぐひ)さんも、小さくて可愛らしかったのでしょう。

いえ、それどころか、虞姫(ぐひ)さんは、中国の四大美人の一人でした。記録に乏しくて生没年や細かい容姿などは不明ですが、本当に残念です。

薬草としてのヒナゲシ

ヒナゲシには、麻薬成分はないため、どこでも自由に栽培できますが、ロエアジンやロエアゲニンなどのアルカロイドが含まれているため、飲まない方が良いでしょう。

アルカロイドは、植物体に含まれる有機化合物ですが、タバコのニコチン・お茶のカフェイン・ケシのモルヒネなどのように動物に対して特殊な作用を及ぼすものが多いとされているからです。

尚、ヨーロッパでは、ヒナゲシを煎じて、砂糖やシロップを加えて、うがい薬として使っています。日本では知られていませんが、おだやかな咳止めになるそうです。

ちなみに、江戸時代に日本に伝来したころは、実からとれた乳汁をおかゆに混ぜて子供に食べさせていたこともあるようです。ケシに含まれる催眠作用に期待して子供が寝つき易くなると考えたのでしょう。

人々の心に響くヒナゲシの花

ヒナゲシは、ケシ科で耐寒性の一年草ですが、美しい花にはさまざまな別名がありました。中国では、今回紹介した虞美人草(グビジンソウ)、フランスではコクリコ、スペインではアマポーラと呼ばれています。

それぞれの名称で逸話があるのかもしれませんが、ケシ科の花には、悲しい花言葉が付けられることが多いようです。虞美人草には「別れの悲しみ」という意味が込められていました。その他、ヒナゲシの花言葉には、「慰め」「いたわり」「思いやり」「陽気でやさしい」などの意味が込められていました。

尚、フランスの国旗の赤は、コクリコ(ヒナゲシ)の赤色からとったものと言われています。

どうやら、ヒナゲシの花は、ただ美しいだけではなくて、人々の心に微妙に影響を与える花だったようです。ヒナゲシの花は、もともと気になる花でしたが、今まで以上に親しみをもつようになりました。