古い時代から人気のあったヤブランの花
ヤブランは、本州、九州、四国では普通に見られる常緑性の多年草で、ユリの仲間です。とても丈夫で、ほぼ一年中同じ姿をしているため、歩道の端や、神社・お寺、和風民家の庭の周りなどに使われています。
ヤブランの背丈は、30〜50㎝で夏から秋にかけて細長い茎の周りに紫色や白色の小さな花を咲かせます。ヤブランはどこでも見られるため、今まで見過ごしていましたが、万葉集の中でヤブランを季語として使った短歌が、10首以上もあるという情報を聞いてから、途端に興味を持つようになりました。
古くからそれほど人気のある花だったことに驚いて、調べましたが、今回の確認では、ヤブランは季語になっていませんでした。
万葉集では、「山菅(やますげ)」という言葉が詠まれていますが、この「山菅」を「ヤブラン」と解釈することもあって、そのことから「ヤブラン」の季語説が生まれたようです。
ヤブランについて
ヤブランは、樹林の木陰などの藪の中などで生育して、生物学的にはユリ科の植物ですが、いつも緑色を保っている葉の形が「ラン」の葉に似ているため、「ヤブラン」と呼ばれているようです。
夏の終わりごろから秋にかけて、6枚の花弁をつけた極小の花を咲かせます。ヤブラン属は5種ありますが、日本に自生しているのは、「ヤブラン」と、「ヒメヤブラン」、「コヤブラン」の3種です。尚、園芸品種としては、20種ほどもありました。
ヤブランは、花が咲き終わると、黒い実を付けます。この黒い実は艶があって印象深いため、見た人は多いと思います。
ヤブランは季語なの?
ランは秋の季語ですが、ヤブランはユリ科のため季語にはなっていませんでした。しかし、ランの花とヤブランは同時期に咲いて、どこでも見られるため、少しずつ秋の季語として使われるようになったようですが、ヤブランは「万葉集」には使われていませんでした。
ヤブランは、「万葉集」の中で、「山菅(やますげ)」と呼ばれていたという説があります。このことが、ヤブランが季語になっているという説の始まりだと思われます。
ただし、「山菅」は、カヤツリグサ科の「菅(すげ)」という説も有力です。
「山菅」は、葉を結んで恋占いをする時などでも使われたため、恋愛の歌に多く詠まれています。
なお、次に短歌と俳句との違いなどについて簡単に紹介します。
短歌とは?
短歌は、日本特有の定型詩(文字数が、5・7・5・7・7の31文字と決められています)の1つです。短歌に似たものに俳句があります。
短歌と俳句の違いは?
短歌と俳句の違いは、文字数の違いと、短歌には、季語は入れなければならないという制約がない点です。俳句の文字数は、5・7・5の17文字で、季語を入れなければなりません。
このように、短歌は俳句に比べて制約が少ないため、思ったことを文字にしやすく、恋の歌が多く読まれる傾向があります。
まとめ
今回の確認では、ヤブランが万葉集に詠まれた「山菅(やますげ)」と同じものかどうかは不明でした。
尚、万葉集で「山菅(やますげ)」や「菅(すげ)」を使った歌は14も詠まれていました。
どうやら、ヤブランの花は季語にはなっていないようですが、こんなことが議論になるほど、ヤブランは人気の花でした。何気なく道端に咲いていることは知っていましたが、今回、改めてヤブランの魅力に触れることができました。