昆虫(成虫)は軽度の傷を負っても修復する能力がありません。その理由について、種全体の視点で考えてみました。
▼目次
1.昆虫の発育形態
幼虫と成虫の姿形に大きな違いが無い昆虫もいますが、多くの種類は、幼虫から成虫になる時に、姿形を大きく変えてしまいます。
幼虫から成虫に変化する過程で蛹(さなぎ)の期間が無い不完全変態と、完全変態に分類されています。
《不完全変態の特徴》
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- 幼虫期の翅(はね)や生殖器官が未発達。
- 脱皮を繰り返しながら成長して完成形に近づく。
- 幼虫から成虫になる過程で蛹(さなぎ)の期間は無い。
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《完全変態の特徴》
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- 幼虫期と成虫の姿は、著しく異なる。
- 翅などの発育は表皮の下で進行。
- 幼虫期の最終齢の後、蛹(さなぎ)の期間を経て成虫になる。
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2.昆虫の体の特徴
昆虫の成虫の体表面は、クチクラで作られた外骨格という硬い組織で作られています。
昆虫のクチクラとは?
昆虫のクチクラは体の表面を覆っている外骨格を作る物質で、外側の「上クチクラ」と、細胞に接する「原クチクラ」の2層構造でできています。「原クチクラ」は、繊維状のキチンと強固に結び付いたタンパク質で構成していて、強さと硬さがあります。
簡単に言うと、クチクラは、表皮を作る細胞が、体を守るために分泌した膜のことです。昆虫の場合は、体を支える骨と、体を守る鎧(よろい)の役目を担っています。
3.昆虫は外骨格があるから再生しないの?
昆虫の幼虫は、細胞分裂して再生しますが、成虫になると細胞分裂はできなくなります。硬い外骨格があるからでしょうか?
そんなことはないでしょう。
外骨格のあるザリガニは、足が取れても再生できるし、脱皮を繰り返しながら成長します。
もう少し範囲を広げてみると、人でさえ部分的に再生しています。
人の場合は、手足は再生しませんが、髭や爪を切っても、再度伸びてくるし、皮膚の表面に軽い傷をつけても、かさぶたができて、新しい皮膚が作られます。
このようなことが出来るのは、細胞が分裂する能力を持っているからです。つまり、昆虫は変態をして成虫になると、細胞分裂できなくなるのです。
昆虫が細胞分裂しない理由とは?
多くの生き物を俯瞰(ふかん)してみた場合、種全体の本能的な行動は、子孫を残すことを中心にプログラムされているようです。
一般的な昆虫(成虫)の寿命は短いと言われています。そのかわり他の生き物と比べると、個体数が多くて種全体の目的を叶えるチャンスは多いでしょう。
これらを前提に考えると、昆虫(成虫)は、子孫を残すことを目標にして使命を全うすると寿命が尽きるのです。
成虫の昆虫は短命です。そのため、体を修復する再生能力は必要ないのでしょう。
4.まとめ
昆虫は幼虫時代には細胞分裂をして軽い傷なら治すことが可能です。ところが成虫になると、ザリガニのように足が取れても再生できません。その理由について、個別の個体ではなく種全体を見て考えてみました。
すると、多くの生き物は、子孫を残すことを中心に行動しているように見えます。昆虫は短命ですが、種全体の数が多いため目的を達成しやすいでしょう。
逆に寿命が長い生き物の場合はどうでしょうか?
寿命が長い生き物の場合は、繁殖期間も長くなるため、途中で怪我を負っても直ぐに死んでしまっては困ります。種の子孫を増やすチャンスをつぶしてしまうからです。
つまり、寿命が長い生き物では、怪我を直す修復能力は必須です。
尚、誤解のないように補足しますが、人の場合は上に記載した論点は当てはまりません。あくまで、昆虫やその他の野生動物の世界を念頭に考えています。私は「人間」で良かったと常々実感しています。