普通の小さな虫と花の関係は、蜜や花粉をもらう代わりに授粉してもらうような共存共栄ですが、特定の植物は、ハエを騙して受粉をしてもらう形態のものもあります。この不思議な関係から自然界の共存共栄の厳しさを伺い知ることができます。自然界は面白いが厳しい。
▼目次
1. 植物と虫の共存共栄は生きるための手段
植物と小さな虫たちの普通の関係は、虫たちが植物から蜜や花粉をもらう代わりに、虫たちは植物の種子を実らせるお手伝いをする共存共栄でしょう。
虫は花粉の運搬を担っていて、専門用語では「ポリネータ」と呼ばれています。
人から見ると、共存共栄は、ほほえましく感じられますが、本当は厳しい自然界で生きていくための一つの手段として、お互いを利用しているだけの関係です。
共存共栄は、たまたま結果として、双方に利を得るようになったと考えた方が良さそうです。
このことを示している実例を紹介します。
2.花粉を運んでくれるハエをだまして受粉させる花
南アフリカ原産のガガイモ科の植物「スタペリア・ギガンテア」は、凡そ10㎝の星型の花を咲かせます。
ふつう花は美しいものですが、「スタペリア・ギガンテア」は薄い褐色で、多くの筋をむき出しにしています。グロテスクという表現がぴったりの花です。しかも「スタペリア・ギガンテア」という花は、腐食臭を漂わせます。
逆に、こんな酷い花なら、一度は見てみたいという人もいらっしゃるでしょう。日本では、国立科学博物館筑波実験植物園のサバンナ温室で、栽培されているようです。
2.1植物にだまされるハエ
「スタペリア・ギガンテア」の花が咲き始めると、腐食臭にハエが集まってきて、ハエはポリネータとして働きます。
ハエのおかげで、「スタペリア・ギガンテア」は、果実をつけますが、ハエは、「スタペリア・ギガンテア」に騙(だま)されていたのです。
3. 植物によるハエのだまし方
ハエは「スタペリア・ギガンテア」の花から腐食臭がすると、汚物を探して花の中に潜り込みます。ハエは、花の蜜や花粉を得るためではなく、腐食臭に誘われて汚物に卵を産み付けに来たからです。
花粉を体に付けたハエが花の中に入ると、「スタペリア・ギガンテア」の花は授粉して子孫を残します。ところが、時が経つと「スタペリア・ギガンテア」の花は、枯れてしまいます。
ハエは枯れてしまう花の中に卵を産みつけたため子孫を残すことはできません。(ハエはだまされていたのです)
「スタペリア・ギガンテア」の花は、ハエが汚物に卵を産む性質を利用して腐食臭を漂わせて、ハエに花粉を運ばせていました。一見、共存共栄に見えますが、ハエと「スタペリア・ギガンテア」の目的は違います。ハエにとっては、だまされただけで、何のメリットもなかったのです。
通常の自然界の共存共栄は、お互いに恩恵を受ける関係ですが、ハエと「スタペリア・ギガンテア」がしているように、自分たちが生き残るために行動しているのでしょう。
次に紹介するハエとマムシグサの関係は、もっと厳しいものでした。
4.マムシグサとハエの関係
日本にあるマムシグサも、ハエの好む腐食臭を漂わせて、筒状のホウ内に誘い込みますが、受粉の手助けをしてくれたハエが外に出る穴はありません。
マムシグサの筒状のホウ内に入ったハエは外に出られなくなります。ハエは、メリットを受け取るどころか、命までマムシグサに捧げる羽目になってしまうのです。
5.ポイントのまとめ
「スタペリア・ギガンテア」や「マムシグサ」とハエの関係は、ハエが腐食物内に子孫を産みたいということを、植物が利用していました。
ハエと植物との目的が違っていたために片方が相手側をだましたことになりますが、もしも目的がマッチしていれば、双方の利益になる共存共栄だったかもしれません。
そんな風に考えれば、自然界の共存共栄は、ちょっと方向が違うだけで厳しい関係になることが判るでしょう。
自然界の生き残りをかけただまし合いを、傍から見ているのは面白いですが、自然界の生きものたちの生活を知るたびに、人間に生まれて良かったと実感しています。