ハキリアリは、巣穴でキノコを栽培していますが、巣穴の中で高温多湿を好む菌を育てるのは大変でしょう。この記事では、ハキリアリが巣穴を衛生的に保つ方法を紹介しています。
▼目次
キノコを栽培するハキリアリ
ハキリアリは、キノコを育ててキノコの菌を収穫するアリです。巣の中で育てている特殊なキノコのために、植物の葉を巣に持ち帰って養分として与えています。
キノコは高温多湿が好きなので油断していると直ぐに他の菌類等がはびこってしまうはずです。キノコを培養する部屋の管理は大変だと思います。
ハキリアリはどのように巣の中の衛生状態を保っているのでしょうか?
ハキリアリが巣穴を衛生的に保つ方法
ハキリアリは、巣穴の中で、よそ者の菌を見つけると、直ちに巣穴の外に排除します。また、作りたての菌園では、栽培する菌糸を植え付けて衛生的な巣穴を維持するように努力しています。
そして、ハキリアリは、体から化学物質を出して、キノコ菌園を弱酸性(ペーハー5)に保って、病原体や寄生菌が入ってきても、それらが繁殖しないようにしていました。
巣穴を弱酸性にする効果
ハキリアリが巣穴を弱酸性にする理由は、栽培しているキノコ菌には最良の環境になって、侵入する病原菌などには害になるためです。実験的に巣からハキリアリを取り除くと、数日で強酸性化してしまって、寄生菌や細菌が増えることが確認されています。
ハキリアリは、このような対応をして、常にキノコ菌園を維持する努力をしていました。
しかし巣穴の温度や周囲の環境によっては、キノコ菌園を衛生的に保ち続けるのは難しいかもしれません。
では、どうやってハキリアリは、この難問に対応しているのでしょうか。それに対する有望なこたえが1970年に発見されていました。
ハキリアリの体から出る特別な化学物質
1970年に、ハキリアリ属のチャイロハキリアリの後胸側板線(こうきょうそくばんせん)から微生物の機能や成長をこばむ物質が作られていることが発見されました。
チャイロハキリアリの後胸側板線からの分泌物質
チャイロハキリアリの後胸側板線は、左右の胸の後ろに1つずつあって、細菌の増殖を抑える働きをする「フェニル酢酸」や、よそ者の菌の胞子の発芽を妨げる働きをする「ヒドロキシデカン酸」を作っていました。
さらに、後胸側板線からは、栽培するキノコ菌の成長を促す「インドール酢酸(植物ホルモンの一種)」も分泌していたのです。
また、新たな研究では、トガリハキリアリ属のアクロミルメックス・オクトスピノススの後胸側板線から、20種類もの化合物が確認されています。
ハキリアリには、このような後胸側板線の働きがあるため、高温多湿の巣の中でも衛生状態が保たれていたのでしょう。
ポイントのまとめ
ハキリアリは、巣穴の中で、よそ者の菌を見つけると、直ちに巣穴の外に排除します。また、作りたての菌園では、栽培する菌糸を植え付けて衛生的な巣穴を維持するように努力しています。
ハキリアリは、体から化学物質を出して、キノコ菌園を弱酸性(ペーハー5)に保って、病原体や寄生菌が入ってきても、それらが繁殖しないようにしていました。
また、ハキリアリの中には、後胸側板線から特別な化学物質を分泌して、ハキリアリが管理するキノコ菌園を衛生的に保つこともしていました。
アリは、蟻酸のような化学物質を出して道標を作ることや身を守る武器にして活用していますが、ハキリアリは、普通のアリ以上に化学物質を活用するアリと言っても良いでしょう。