渡り鳥のインドガンやアネハヅルは標高8000m級のヒマラヤ山脈を飛び越えて飛行しています。8000mもの高度は極寒で低酸素の世界です。こんな環境で飛行できる秘密は何でしょう。この記事では、インドガンとアネハヅルの飛行方法を紹介しています。
8000m級の山を飛び越える過酷さ
渡り鳥のインドガンやアネハヅルは、本当に標高7000m~8000mものヒマラヤの高地を超えて飛ぶと言われています。
考えてみると、標高8000mの世界は、空気中の酸素濃度が通常生活している所の1/3程しかありません。
人間では酸素マスクをつけないと数10m移動するだけでも大変です。
このような過酷な環境(低酸素で、極寒の空気中)のヒマラヤ高地を、飛び越えることが、本当に可能なのでしょうか?
インドガンとアネハヅルには、どんな秘密があるのでしょう。
ヒマラヤを飛び越えるインドガンの方法
鳥には、呼吸を効率的に行う気嚢(きのう)という器官があります。気嚢を拡大・縮小させて、吸気や呼気の時に、空気を肺に送り込んでいます。
この時、空気は肺の中で血液とは逆方向に流れるため、対抗流性ガス交換をしています。
対抗流性ガス交換では、血液は効率的に空気中の酸素を取り込めるため、鳥は、飛ぶような激しい運動ができると言われています。
しかし、気嚢の働きだけで、ヒマラヤのような高地を飛び越えられるのでしょうか?
インドガンの特別な身体能力
インドガンの体には、高度を飛ぶための、次のような特別な能力が備わっていました。
- 飛翔時に使われる筋肉内の毛細血管
インドガンは、飛翔筋内に発達した毛細血管を持っています。そのため、血液中のヘモグロビンの酸素結合能力は、低地の鳥に比べて高くなります。このため、インドガンはヒマラヤのような低酸素域でも、効率的に酸素を取り込みながら飛行できるのでしょう。 - 飛翔時に使う筋肉内のミトコンドリア
ミトコンドリアには、細胞内のエネルギーを作り出す役目があります。インドガンの飛翔筋は、ミトコンドリアの数が多くて、エネルギーの生成効率が高いため、高度飛行に役立つと言われています。
この他、インドガンは夜間や早朝を選んで高度飛行をしています。
夜間や早朝は、空気が冷えていて密度が高くなるために、飛んでいるインドガンの揚力(ようりょく)が高くなります。また、酸素吸入をするにも都合が良いように作用します。
このように、インドガンは優れた身体能力と合わせて、高度飛行に適した時間帯を選んで飛行していました。そのため、標高7000m~8000mもの高度を飛ぶことが出来るのでしょう。
ヒマラヤを飛び越えるアネハヅルの方法
アネハヅルは、インドガンのような身体能力はありません。そのため、羽ばたくだけでは超高空飛行はできません。
アネハヅルは、強い上昇気流を利用していました。
ヒマラヤの斜面には強い上昇気流があります。アネハヅルは、この上昇気流を上手く捉えることでヒマラヤを超えていました。
アネハヅルの体長はビッグサイズです。全長90㎝メートル(体重:2kg程度)の大きさがあって、翼を広げると170~190㎝メートルにもなります。但し、ツルの中では最小です。
このアネハヅルの体長は、ヒマラヤの上昇気流に乗るのに適した大きさと推測されています。アネハヅルは、過酷な気象条件を熟知して、上昇気流を上手く活用して、ヒマラヤを飛び越えているのでしょう。
まとめ
インドガンやアネハヅルが、8000m級の山を飛び越える理由は、鳥類が持っている気嚢の働きだけではありませんでした。
インドガンは、特別な体の働きが飛行をカバーしていたことと、高度飛行に適した時間帯を選んで飛行する知恵で対応していました。
アネハヅルは、大きな体の鳥ですが、ツルの中では最も小さくて、ヒマラヤ山脈の斜面に吹き荒れる上昇気流を活用しやすかった。また、ヒマラヤの過酷な気象条件を熟知して上手に活用する知恵があったのでしょう。