アリとアブラムシの共生関係は有名です。ところが、研究者が観察して見えてくる世界は、一般の人が思っているような甘い関係ではありませんでした。この記事では、アリとアブラムシや、他の生物間で生じている共生関係の厳しい現実を、紹介しています。
アリとアブラムシとの共生関係の危うさ
アリとアブラムシの共生関係を通じて、研究者が感じた共生関係の現実等を紹介します。
アリはアブラムシの排泄物をなめていることを知っているの?
アリは、アブラムシのお尻からでる甘露(排泄物)を欲しいために、アブラムシを守っていると考えられています。
ところが、昆虫の専門書を見ると、それは全くの誤解でした。アリはアブラムシの尾の端を他のアリの頭と間違えているらしいと書かれていました。
《アリの勘違い》
はたらきアリは、他のアリの面倒をみます。そして、他のアリとお互いに口移しで給餌し合います。
つまり、アリは、アブラムシの尾からでる甘露を、他のアリから口移しでもらっていると思っているのかもしれないのです。
このことの真実は、アリとアブラムシに聞いてみるしかわかりません。但し、もし目の悪いアリが勘違いしているのだとしたら、ちょっとアリが可哀想になります。
但し、次のような厳しい現実もあります。
アリとアブラムシの関係は甘露の品質次第
アリがアブラムシとの関係をどう考えているのかを知るのは無理です。しかし、甘露が美味しくなくなったら、両者の関係はどうなるのでしょうか。
アブラムシはアリの獲物
アブラムシの甘露の質は、窒素などの植物成分が悪いと低下してしまいます。その為、栄養分の少ない植物を食べているアブラムシの甘露は、不味くなります。
甘露が美味しくないと、アブラムシはアリに守ってもらえないどころか、逆に食べられることもあります。
アリにとっては、美味しい甘露を出してくれないアブラムシは、餌の対象にしか見えなくなるでしょう。
この例を見るだけでも、自然界で生きて行くのは厳しいということが分かります。
お互いに利を供給しあう関係でも、自然界で利益がなくなると、あっという間に食うか食われるかの関係になってしまうからです。
このようにアリと共生する例は、他にもあります。
シジミチョウの幼虫は、蜜線から糖と蜜を分泌してアリに提供します。アリは、それらをもらう代わりに外敵から、シジミチョウを守ります。
但し、シジミチョウの中には、一生の殆どをアリの巣の中で過ごす種もいます。このような種では、巣の中でアリの幼虫を食べてしまうものもいます。
とても共生とは言えない関係です。
まとめ
自然界の共生関係は、何か特別美しいものと考えていました。
ところが、以上のような、アリとアブラムシの関係から分かるように、利害関係だけで成立している厳しい世界でした。
そのため、ちょっとでもバランスが崩れると共生関係は消失してしまいます。
アブラムシの排泄物をなめているアリは可哀想などと考えてしまうのは、人の基準で考えるからです。
アリもアブラムシも、必死に生き残りをかけて、緊迫感の中で日々の生活を営んでいるのでしょう。
昆虫は人に比べて短い寿命ですが、本当に教えられることばかりです。