多くの生物で最も大切なことは、子孫を残すことです。閉鎖花の多くは、ツボミのままで実を付ける不思議な花ですが、子孫を残すための植物の知恵として生じました。この記事では、閉鎖花とはどのような花で、どんな役割を担っているのか等を、紹介しています。
自家授粉で子孫を増やす閉鎖花
花々は競って綺麗(きれい)な花を咲かせますが、植物が花を咲かせるのは、人間のためではありません。
植物は、花粉を運んで受粉をしてくれるポリネータ(小さな虫等)をおびき寄せるために、華やか花を咲かせているのです。
多くの生物は近親間の交配では正常な子孫を残しにくいと言われています。でも、自分で動き回ることの出来ない植物は、ポリネータが他の花の花粉を持って来てくれなければ受粉できません。
これは植物にとっては、重大なリスクです。
このリスクを解消する手段として、植物は、自家受粉でも子孫を増やすことのできる閉鎖花(へいさか)を作ったのでしょう。
閉鎖花の役割
閉鎖花の役割を、分かりやすいように、スミレの花の例で紹介します。
スミレの花の例
野に咲く、小さなスミレの花を見つけると、こんな所に健気(けなげ)に咲いてくれて有難う。と、思わず声に出して叫びたくなるほど感動することがあります。
そして、他の生物が、スミレを受粉させるために、このような場所を訪問するとは思えません。
そんな場所に、ポツンと一凛だけ、小さいスミレの花を咲かせていることがあります。
でも、スミレは、ポリネータのマルハナバチ等が来てくれるように、精いっぱい可憐な花を咲かせます。但し、マルハナバチが飛んで来てくれる保障はないし、来てくれたマルハナバチが、花粉を付着させていないことだってあります。
そんな場合に備えてスミレは、自家受粉(じかじゅふん)で子孫を繁栄させられるようにしたのでしょう。
開花したスミレの花の周辺を詳しく観察すると、これから花になるような蕾(つぼみ)があります。これは、花を咲かせることのない閉鎖花(へいさか)と言われるものです。
閉鎖花とは、自家受粉で子孫を残すことのできるシステムを持っている花のことです。スミレ等は、可憐な花を咲かせた後に、次々に閉鎖花をつけて子孫を残す準備をしています。
もちろん、動物と同じように、植物の自家受粉も正常な子孫を作れないというリスクはあります。
但し、ポリネータによって他の花粉を運んでもらえない場合に備えて、何が何でも受粉するシステムを作っているのでしょう。
日本の閉鎖花は、19種ほどです。そして、それらは、ほとんどツボミの状態で実をつけます。
閉鎖花の役割は、確実に子孫(種)を残すことです。
閉鎖花の構造
閉鎖花は開花しないで、蕾(つぼみ)のままで、実を付けます。
閉鎖花の内側を覗(のぞ)くと、普通の花になるための準備をしているように見えます。ところが、大きく違うところがあります。
それは、おしべの葯(やく)が、めしべの柱頭(ちゅうとう)と構造的に接触しています。これなら確実に受粉して種子を作ることができます。
普通の花は、自分の花粉で受粉しないように、おしべの葯とめしべの柱頭は離れているか、場合によっては時期をずらして成長します。
自分の花粉を受粉して種をつくる繁殖(はんしょく)方法は、専門用語で言うと「自殖(じしょく)」と呼ばれています。
花を開かせない閉鎖花のメリット
花を開かせない花(閉鎖花)は、人からみると可哀想に感じられますが、植物にとっては次のようなメリットがあります。
- 多くの花粉を準備しなくて済みます。
- 蜜を出さなくて済みます。
- 花弁(はなびら)を作らなくて済みます。
つまり、閉鎖花は低エネルギーで、子孫の種子を作ることができる効率の良いシステムなのです。
まとめ
閉鎖花は、自家受粉する機構を持っています。それは、昆虫が、同種の他の花粉を運んできてくれなかった場合の備えです。
閉鎖花は、自家受粉のため、正常に生長しないリスクを伴いますが、子孫を残せなくなることよりも良い選択なのでしょう。
閉鎖花の代表的なものには、スミレやホトケノザ、ツリフネソウなどがあります。