ハキリアリは、巣穴でキノコを栽培していますが、巣穴の中で高温多湿を好むキノコ菌を育てるのは大変です。この記事では、ハキリアリが巣穴を、どのようにして衛生的に保っているのかを紹介しています。様々な工夫をしながら生活していることに驚かされます。
キノコを栽培するハキリアリ
ハキリアリは、キノコを育ててキノコの菌を収穫するアリです。巣の中で育てている特殊なキノコのため、ハキリアリは、植物の葉を巣に持ち帰って、キノコに養分として与えています。
キノコは高温多湿が好きなので油断していると直ぐに他の菌類等がはびこってしまいます。キノコを培養する部屋の管理は大変でしょう。
ハキリアリはどのように巣の中の衛生状態を保っているのでしょうか?
ハキリアリが巣穴を衛生的に保つ方法
ハキリアリは、巣穴の中で、よそ者の菌を見つけると、直ちに巣穴の外に排除します。また、作りたての菌園では、栽培する菌糸を植え付けて衛生的な巣穴を維持するように努力しています。
又、ハキリアリは、体から化学物質を出して、キノコ菌園を弱酸性(ペーハー5)に保っています。こうすることで、病原体や寄生菌が入ってきても、それらは繁殖しません。
ハキリアリは、変な菌が入らないようにパトロールで見張ることや、化学物質を出して、巣内雰囲気を弱酸性にしていました。こうすることで、ハキリアリは、巣穴内を衛生的に保っていました。
巣穴を弱酸性にする効果
ハキリアリが巣穴を弱酸性にする理由は、栽培しているキノコ菌には最良の環境ですが、侵入する病原菌には害になるからです。弱酸性の雰囲気は、キノコにとって最良と言われています。
ちなみに、実験的に巣からハキリアリを取り除くと、数日で強酸性化してしまうことが確認されています。
そして、寄生菌や細菌は、増えてしまいます。
ハキリアリは、巣内を弱酸性化して、常にキノコ菌園を維持する努力をしていたのです。
しかし巣穴の温度や周囲の環境によっては、キノコ菌園を衛生的に保ち続けるのは難しいかもしれません。
では、どうやってハキリアリは、この難問に対応しているのでしょうか。それに対する有望なこたえが、1970年に発見されていました。
ハキリアリの体から出る特別な化学物質
1970年に、ハキリアリ属のチャイロハキリアリの後胸側板線(こうきょうそくばんせん)が発見されました。
そして、チャイロハキリアリの後胸側板線からは、微生物の機能や成長をこばむ物質が作られていることが発見されたのです。
チャイロハキリアリの後胸側板線からの分泌物質
チャイロハキリアリの後胸側板線は、左右の胸の後ろに1つずつあります。
この後胸側板線は、細菌の増殖を抑える働きや、よそ者の菌の胞子の発芽を妨げる物質を分泌していました。
《細菌の増殖を抑える働き》
細菌の増殖を抑える働きは、有機化合物の一種であるフェニル酢酸です。
《よそ者の菌の胞子の発芽を妨げる》
ハキリアリが育てる、キノコ菌以外の胞子の発芽を妨げる不飽和脂肪酸は、ヒドロキシデカン酸です。
ハキリアリ後胸側板線からは、このような物質の分泌をしていました。さらに、栽培するキノコ菌の成長を促す「インドール酢酸(植物ホルモンの一種)」も分泌していました。
さらに、トガリハキリアリ属のアクロミルメックス・オクトスピノススの後胸側板線から、20種類もの化合物も確認されています。
ハキリアリには、このような後胸側板線の働きがあるため、高温多湿の巣の中でも衛生状態が保たれているのでしょう。
まとめ
ハキリアリは、巣穴の中で、よそ者の菌を見つけると、直ちに巣穴の外に排除します。また、作りたての菌園では、栽培する菌糸を植え付けて衛生的な巣穴を維持するように努力しています。
ハキリアリは、体から化学物質を出して、キノコ菌園を弱酸性(ペーハー5)に保って、キノコ菌の環境を維持していました。
ハキリアリが、巣内をキノコ菌に良い環境に維持するため、他の病原体や寄生菌が入ってきても、それらが繁殖しなかったのです。
アリは、蟻酸のような化学物質を出して道標を作ることや身を守る武器にして活用していますが、ハキリアリは、普通のアリ以上に化学物質を活用するアリと言っても良いでしょう。