昆虫ミメティクスとは?

トンボの翅 昆虫・虫
トンボの翅

生態機能や形から、工学や医療分野に応用する、バイオミメティクスは多くの人に知られるようになりました。但し、バイオミメティクスの詳しい内容は、殆ど知られていません。昆虫ミメティクスの実例を通して技術発展に役立っている内容を紹介しています。

昆虫ミメティクスとは?

生物が持っている生態機能や形を真似ることで、工学や医療分野の技術に応用することは、多くの人に知られるようになりました。これは、バイオミメティクスと呼ばれています。

昆虫ミメティクスとは、バイオミメティクスのように、小さな昆虫が持っている素晴らしい機能や形を人の技術に応用することです。

昆虫にとっては、生きるために必死で、進化した結果ですが、そこには素晴らしい技術が潜んでいます。

次に、昆虫ミメティクスとは、具体的にどんなものなのかを、2つの実例で紹介します。1つ目の、ゴミムシダマシの例は、ちょっとした工夫のように見えるのですが、水が少ない地域で、水を得る術の素晴らしい代表例です。

2つ目のトンボのハネの構造は、生態系の長い歴史の中で出来た構造でしょう。トンボのハネの構造事例は、人の技術へのヒントを授けてくれます。

どちらの例も、人間がメカニズムを究明して新しい技術に応用するものです。これらの例を通じて、昆虫ミメティクスとは何なのかをわかりやすく理解することができるでしょう。

空気中から水を得るゴミムシダマシ

キリアツメゴミムシダマシは、ほとんど雨の降らない乾燥地帯で空気中から水を得ることが出来ます。もし、人間が、ゴミムシダマシの真似ができれば、乾燥地帯の水不足は解消されるでしょう。

ゴミムシダマシは、世界中に1万種以上いる昆虫です。日本にも300種以上が生息する体長2〜3㎝程の小さな昆虫です。

ナミブ砂漠の海に近い所に生息する、キリアツメゴミムシダマシは、ゴミムシダマシの仲間です。その地域の年間降水量は、120mm以下と、極めて乾燥した地域のため、飲み水の確保は大変です。

キリアツメゴミムシダマシの工夫

キリアツメゴミムシダマシは、逆立ちをして霧に含まれている水滴を体に集めて飲むことができます。たった一滴ですが、キリアツメゴミムシダマシを人の大きさに換算すると、水の量は、20リットルにもなります。

キリアツメゴミムシダマシは、朝と、夕方になると逆立ちをして砂漠の砂の上でじっとしています。

すると、水分子がくっつきやすい体の部分で、霧に含まれている水分を集めます。

《水分を集める仕組み》
キリアツメゴミムシダマシの体に付着した水滴が大きくなって、重さに耐えきれなくなると、水を弾きやすい体表を転がり落ちてきます。すると水滴は、逆立ちした口に集まるようになっています。

この仕組みは、単純で説明は不要に見えますが、技術的には次のような機構です。

ゴミムシダマシの体表が、水分子を集める親水性と、弾きやすい撥水性(はっすいせい)という異なる性質をもっているからです。

小さな虫が逆立ちして水を集める仕草を見ても、見逃してしまうかもしれないような内容です。ところが、研究者や技術者は、この機構をまねて薄膜を作る集水材料を開発することに成功しています。

さらに技術改良は必要ですが、これと同じ材料で大きなものが出来れば、乾燥地帯などの水資源の確保には有望です。

この事例のように、昆虫ミメティクスとは、単純に昆虫の体の機構を真似るのではありません。そこに潜んでいる素晴らしい技術を捉える技術者や研究者の考え方が、重要です。

トンボのハネを真似た、プロペラ機構

トンボのハネの機構を、プロペラ技術に応用できれば、省エネや電力の確保も可能です。

トンボは低速でも飛ぶことができます。理由は、トンボのハネの表面が平らではなく、ギザギザしていることと関係しています。

実際に、トンボのハネを真似してプロペラを作ると、弱い風でも回転することができます。

トンボのハネは複雑に曲がって、凸凹していますが、風を受けると渦の列ができます。この渦が外側の空気を効率的に流すため、弱い風でも回転できることが分かってきました。

もしも、弱い風でも回転できるようになれば、プロペラ特有の騒音も小さくなるため、住宅街でも使うことができるようになります。そして、電力の確保には大いに役立つことになるでしょう。

既にトンボのハネの表面構造を真似して開発した製品には、エアコン・空気清浄機などがあります。これらの製品は、省エネや騒音改善に役立っています。

この事例では、トンボが低速で飛べる理由の究明と並行して、生態機構を真似て作った実験や、シミュレーションをしています。

そして、シミュレーションや実験から得られたデータから、技術的な理屈を組み立てています。

人間は素晴らしい技術を開発できますが、自然界にはわからないことの方が多いので、生物から教えてもらう事象は有益です。

この事例を通じて、技術の進歩に、昆虫ミメティクスが、どれほど重要なのか、わかっていただけるでしょう。

まとめ

生物の生態機能や形を真似て、工学や医療分野の技術に応用する、バイオミメティクスは多くの人に知られるようになりました。

昆虫ミメティクスの事例を通じて、生物の体に潜んでいる技術を捕まえる技術者や研究者の見方や捉え方を紹介してきました。

人の技術の発展は、生態機構の研究を通じて、技術の進歩のヒントを得ていることを理解して頂けたことでしょう。

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