ウツボカズラの消化液内で平泳ぎをするシュミッツィと呼ばれるアリ

ウツボカズラ アリ
ウツボカズラ

ウツボカズラの捕虫器には、消化液が入っていますが、この消化液の中を泳いでエサを捕まえるアリがいます。シュミッツィと呼ばれるアリです。シュミッツィとウツボカズラは、共生の関係です。記事では、シュミッツィを紹介しています。別世界を楽しめます。

ウツボカズラと共生するアリ

ウツボカズラは、痩せた土地で生育する食中植物です。

これは、ボルネオ島のウツボカズラの一種、ペネンテス・ビカルカラタ(以後、ビカルカラタと記載)内で生活するアリのお話です。ビカルカラタは、虫を捕獲するための袋状の捕虫器を、葉から伸ばしたツルの先に持っています。

捕虫器は、葉の先にあって空中のものや、地面に接するようなものまで様々です。捕虫器の大きさは10〜20㎝程です。いずれの捕虫器にも、葉が上部にあって、笠のように覆っています。

捕虫器の上部は、内側に丸く入り込んでいる構造で、襟(エリ)と呼ばれています。
捕虫器を上から覗くと、中には水が入っていて、その底には、多くの昆虫の死骸が沈んでいます。

ビカルカラタの捕虫器の中の水は消化液です。そのため、落ちた昆虫は溶けて養分を吸収されています。

ところが、ビカルカラタの捕虫器の襟(エリ)の内側には、アリがいます。このアリは、ビカルカラタと共生するアリで、シュミッツィヒラヅオオアリ(以後、シュミッツィと記載)と呼ばれています。

このシュミッツィこそが、消化液の中で平泳ぎをする不思議なアリです。

消化液の中で平泳ぎをするアリ(シュミッツィ)

シュミッツィは、体長6.5mmぐらいの働きアリで、見かけは茶褐色をした普通のアリです。シュミッツィは、滑りやすいビカルカラタの上を俊敏に歩くことができます。

シュミッツィの巣は、ビカルカラタの捕虫袋を支えているツルに、直径3mm程の穴をあけた中にあります。

シュミッツィは、ビカルカラタの襟(エリ)の内側等に潜んでいます。そして、ビカルカラタの消化液の中に住んでいるボウフラやミジンコをエサにしてくらしています。

そもそも、消化液の中にボウフラやミジンコが住んでいるのも不思議です。恐らく、雨などで消化液の濃度が薄められるのでしょう。

玉川大学の坂本博士が消化液を日本に持ち帰って測定したところ、pH4.0程度の弱酸性でした。

共生アリの獲物の捕獲方法

シュミッツィは、ビカルカラタの襟(エリ)に潜むか、捕虫器の内部を歩きながら消化液の内部を見ています。そして、ボウフラなどが水中に見えると、消化液に飛び込んで泳いで獲物を探します。

シュミッツィは、驚くほどの速さで泳いで獲物を捕まえます。獲物を捕獲すると、消化液内をゆっくりと移動して水面に向かいます。

シュミッツィは、まるで平泳ぎをしているような泳法で素早く泳ぎ回ることができます。こんなアリがいるとは本当に不思議です。できることならボルネオで、実際のシュミッツィを見たいです。

アリと食中植物との共生の形

ビカルカラタにとっては、ツルに穴をあけられてしまうし、消化液の中にいるボウフラ等も食べられてしまいます。そのため、シュミッツィの存在は、何のメリットもないように見えます。

ところが、シュミッツィがいるビカルカラタは、シュミッツィが住んでいないものに比べて生育が早いことが判っています。(ケンブリッジ大学の研究グループが論文で報告)

同研究グループは、シュミッツィにボウフラやハエなどの幼虫を捕獲させることのメリットを、次のように推測しています。

《研究グループの推測》

  1. シュミッツィは、ボウフラの幼虫が食べてしまう消化液内にいるプランクトンを捕獲されないようにしている?
  2. シュミッツィの排泄物から植物に貴重な窒素を得ている?

消化液内にいるプランクトンは、時が経てば、ビカルカラタの栄養源です。ところが、ボウフラ等の幼虫は、ふ化して飛んで行ってしまうため、栄養にならないからでしょう。

まとめ

ウツボカズラの一種の、ペネンテス・ビカルカラタは、虫を捕獲する袋状の捕虫器をツルの先に持っている食中植物です。

捕虫器の中には、弱酸性の消化液がありますが、消化液の中を泳いでエサを捕まえるシュミッツィとは、共生の関係です。

彼らの不思議な共生関係について紹介してきましたが、シュミッツィが消化液中で泳げる理由は、究明されていません。シュミッツィと同地域の他種アリは、例え雨水で薄められていてもビカルカラタの消化液内では、数10秒で死んでしまいます。

興味がつきないテーマです。究明結果が楽しみです。

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