サギソウの白い花は、まるで白い鳥が飛んでいるよう見えます。ギザギザした花びらは、本物のサギの風切り羽のようです。本当に自然が作り出したものとは信じられない程です。この記事では、過ぎ去った季節の湿地帯で咲いていたサギソウの魅力を紹介します。
サギソウの白い花
実際にはシラサギと言う名前の鳥はいませんが、サギソウの花は、本物のシラサギが飛んでいるように見えます。
サギソウはどんな花なの?
サギソウは、草丈20㎝〜40㎝ほどで、まっすぐに伸びた茎の先に、3㎝程の花を1輪から5輪ぐらい咲かせます。花の形は、唇弁(しんべん)の先が3つに割れていて、左右の裂片には、鳥の風切り羽のようなギザギザした切れ込みがあります。
サギソウの花は、眩(まばゆ)いような白い花ですが、本当に真っ白な鳥が羽ばたいているようにしかみえません。
まるで、白いサギが羽をバタバタさせて飛び交っているようです。サギソウは、真夏の暑い時期に、日当たりの良い湿地帯などで涼しそうに咲いています。
そんな野生のサギソウをはじめて見た時には、こんな形の花が自然界で作られたことを疑った程です。
サギソウが他の湿地帯で子孫を繁栄させる方法
サギソウは湿地性の多年草ですが、どのようにして翌年も咲くのでしょうか。また、動くことのできないサギソウは、どんな方法で他の湿地帯で子孫を繁栄させているのでしょう。
サギソウの子孫の残し方
サギソウは、ラン科ハベナリア属で、耐寒性球根に分類されています。球根は、地下茎を伸ばして越冬します。
同じ湿地内では、地下茎を伸ばして毎年4月下旬ごろ、球根から発芽します。
サギソウは、ガによる花粉媒介で、遠方の湿地間でも仲間を増やしていました。他の離れた湿地でも子孫を残す理由は、環境変化などに備える為でしょう。
サギソウが、花粉媒介に「ガ」を選んだ理由
サギソウの花の香りは、殆どありませんが、夜になると少し香ります。これは、花粉媒介をしてくれる夜行性のスズメガ科昆虫の「ガ」の誘導香と言われています。
サギソウの花びらが白の理由は、夜行性の「ガ」が探しやすいようにしているのでしょう。
では、何故「ガ」が選ばれたのでしょうか。
次のようなことがことからではないでしょうか。
《ガの能力》
サギソウの咲いている他の湿地までは、かなり離れています。そのため、遠方の湿地に素早く行って花粉を媒介してくれる昆虫は必須です。ガの成虫は、活動性が高いため多量の蜜を探して、距離の離れた多くの花を高速飛行で訪問できます。
サギソウが、ガを選んだ理由は、遠方の湿地まで素早く飛んでいける高い活動能力を持っているからでしょう。
《サギソウの分布》
本州、四国と九州などの平地の湿地に広く分布していて、半世紀程前には東京近郊の湿地でも見られました。ただし、開発に追われて自生地は少なくなった事から、数は減少しています。
そして、現在では、環境省のレッドリストの準絶滅危惧種に指定されています。
まとめ
サギソウは、平地の湿地に分布している多年草です。球根で冬越しますが、子孫を残すためには、他の湿地への進出も必要です。そのため、遠方の湿地にも短時間で行くことのできる、ガを花粉媒介のパートナーに選んだのでしょう。
サギソウを調べて驚いたのは、植物の弱点である生息域の移動手段という難題を、戦略的に対応しようとしていることです。
サギソウは、数を減らしていますが、白い鳥が羽ばたいているようにしか見えない造形です。
考えすぎかも知れませんが、サギソウは、人間の感性を触発して保護されるように仕向けているのかもしれません。