日本のアリの多くは毒針を持っていません。仮に、日本の毒針をもつアリに刺されても、命に関わるような致命傷にはなりません。ところが、海外の毒針アリに刺されると命を脅かされる程のダメージを受けてしまうと言われています。この違いは何でしょう。
日本で毒針を持つアリが少ない理由
日本のアリは295種と言われていますが、毒針を持っているのは、オオハリアリとクシケアリの2種だけです。(フタフシアリ亜科にも毒針を持っている種もいますが、人の皮膚に刺せないため除外。)
世界中のアリは、15,000種から20,000種もいます。海外の多くのアリは、熱帯地域に棲息していて、毒針を持っています。
アリは、ハチから進化したため、お尻に毒針を持つ種がいるのでしょう。しかし、日本のアリは何故、毒針を持つものが少ないのでしょうか?
《日本のアリが毒針を持たない理由》
ハチは、クマやハチクマなどの天敵から身を守るために毒針を持っています。そのため、ハチから進化したアリも毒針を持っていても不思議ではありません。
ところが日本のアリは、毒針を持っていない種が多いことが分かっています。理由は、アリが地面に穴を掘って棲みついた時に、毒針で刺す程の天敵が少なかったためと考えられます。
日本に棲むオオハリアリに刺されると、ピリピリした電気のような痛みが走りますが、直ぐに回復します。
オオハリアリの毒の主体は蟻酸です。
人のような大きな動物に対しては、蟻酸の毒性は弱いのです。但し、オオハリアリの毒は、天敵のカエルやトカゲ等に対しては十分です。
日本のアリは、熱帯地域に棲息する毒針アリのように強力な天敵がいないため、毒針や毒を体内で作る必要がなかったのでしょう。
自然界では生き残るのに必死で、余分なものにエネルギーを費やす余裕などは無いからです。
海外の毒針アリ
熱帯地域に棲息する毒針アリに刺されると命に関わるほどの酷い痛みや、毒性を持っているものが多数います。熱帯地域には、強力な天敵が多いのでしょう。
次に海外の刺すアリの代表例を紹介します。
《テトラポネラ》
テトラポネラは、インドから東南アジアに生息しているアリです。刺されると息が詰まる程の痛さに襲われると言われています。
《アメリカナガアリ》
アメリカナガアリ属は、南北アメリカの熱帯や亜熱帯地域に生息しているアリです。数10種ほどの種類が生息しています。その中の数種は強烈な毒針を持っています。
人が刺されると「めまい」がするほどの激痛に襲われます。
《パラポネラ》
パラポネラは中南米に生息していて、黒褐色をした体長2.5㎝もある大型のアリです。パラポネラに刺されると、焼けるような痛みが走り抜けて、暫く歩くこともできないと言われています。
原始的な性質を持つキバハリアリ
オーストラリアに棲息するキバハリアリの仲間には、ハチからアリに進化した時の古い性質を持っているアリがいます。
キバハリアリの仲間は、約70種類いて、その多くは乾燥地帯で棲息しています。
キバハリアリの原始的な性質
キバハリアリの特別な性質には次のようなものがあります。これが、ハチから進化した性質なのかどうかは不明ですが、原始的な行動のように思われます。
- 広い巣の出入口
地上に穴を掘る多くのアリの巣は、小さなアリの出入りができる程度の穴です。ところが、キバハリアリが掘る巣穴の出入口は、大きな穴がポッカリあいています。 - しつこく追ってくる性質
普通のアリは、巣穴の周辺から外的がいなくなれば深追いはしません。ただし、キバハリアリは、巣から離れても追いかけて来て攻撃します。この性質は、まるでハチのようです。 - 攻撃的な性質
キバハリアリは、大あごを開いて威嚇(いかく)や攻撃を仕掛けてきます。そのために別名ブル・アンツ(雄牛)とも呼ばれて怖れられています。
毒針アリの毒
以上のような毒針アリに刺されると、日本のオオハリアリやクシケアリとは比較できない程のダメージと、回復期間を要します。
海外の大型の毒針アリの毒の成分は、ハチと同じです。ハチの毒は、炎症作用を持つヒスタミンや、呼吸不全や心肺停止をもたらす神経毒です。
また、これらの毒に加えて、アナフィラキシーショックを起こすペプチドなどの混合物もあります。
まとめ
海外に棲息する毒針を持つアリは、ハチの毒の成分を持っていました。日本のアリは、殆ど毒針を持っていません。
毒針のある日本のオオハリアリやクシケアリの毒は、蟻酸のため、致命傷を負わせるような怖いものではありませんでした。
ハチが地上に進出してアリに進化した時の日本では、アリを脅かす天敵が少なかったためなのでしょう。