昆虫の主要な眼は、複眼です。記事では、複眼を選んだ理由や、複眼の視力、複眼の優れた仕組み、さらに単眼の特別な能力などを紹介しています。単眼しか持っていない人間には、不思議な世界です。普段の生活にはない、ひと時をたのしめるでしょう。
昆虫が複眼を選んだ理由
トンボのオニヤンマの複眼は1万個くらいの個眼からできています。
何故、昆虫の眼は、人の眼のように単眼(1枚のレンズ)ではなくて、複眼なのかと思っている方は多いでしょう。
《昆虫が単眼にしなかった理由》
レンズを使って物を拡大すると、像はレンズの後ろに作られます。レンズの焦点距離はレンズの直径とほぼ同じです。仮に、トンボの眼を人と同じ1枚のレンズにすると、レンズの直径は5mmぐらいになります。すると、焦点距離も5mmぐらいのため、昆虫の眼がある頭の中に、最低5mm以上のスペースが必要になります。
つまり、昆虫のような小さな体では、焦点距離を確保できません。これが、単眼(1枚レンズ)では眼を作れない理由です。
昆虫は体が小さいために、焦点距離を必要とする単眼では、物を見ることができないため、複眼を選ぶしかなかったのだと思います。
《複眼なら小さな昆虫でも機能するの?》
複眼は直径、0.03mmぐらいの小さなレンズです。その為、小さな昆虫でも眼として機能します。では、複眼の視力はどのくらいなのでしょうか?
昆虫の複眼の実力は?
トンボなどの昆虫は、素早い動きで飛んでいるハエなどを捕まえることができます。では昆虫の眼の実力はどのくらいなのでしょうか?
複眼の視力
オニヤンマ(トンボ)の複眼は、1万個の個眼で作られていて、100×100に相当します。これは、視界を縦横のそれぞれを100分割している1万画素の粗い写真と同じです。
視力換算では、0.01にも満たない、ピンボケの画像です。
スマートフォン等のカメラでも、1200万画素越えのものがある時代の現代人には、1万画素の画質では耐えられないでしょうね。
複眼の優れた仕組み
昆虫の複眼の視力は思っている以上に粗いですが、複眼には優れた仕組みもあります。また、昆虫には複眼だけでなく、種によって個数の違う単眼も備わっています。では、これらの役割を紹介していきます。
《複眼にすると通常よりも広い範囲が見える》
昆虫と同じレンズ構造のカメラを使うと普通のカメラよりも広い範囲が撮影できることが判っています。つまり、複眼の昆虫は単眼で見るよりも広い範囲を見ているのでしょう。
昆虫は、後方にいるエサや天敵を素早く見つけることもできます。ちなみにトンボの複眼は、360度の全ての範囲を見ることができると言われています。
トンボなどの昆虫は首がないので後ろを見る時には、体の向きを変える必要があると思っていました。でも、トンボには複眼があります。トンボは、見ていないふりをして後方も見ていたのです。
《見える波長の範囲が違う》
昆虫は、人とは違う色を見ることができます。それは、検知できる波長の光が違うためです。
人の場合は、400〜800ナノメートルの波長の光を色としてみることが出来ます。
例えば、昆虫のミツバチでは、300〜700ナノメートルの光を色として見ているそうです。
そのためミツバチには、人に見える波長の長い赤系色は判別できせん。但し、波長の短い黄色や青色の人には見えない紫外線まで、色として見ることができると言われています。
ミツバチのように紫外線が見える昆虫には、花の真ん中が黒色に見えます。理由は、植物が花の中央部に紫外線を吸収する仕組みを作っているからです。植物は、花粉や蜜の場所を黒くして昆虫に分かりやすくしているのでしょう。
もちろん、紫外線を見ることの出来ない人間には、同色の花にしか見えません。
《昆虫の単眼の特別な能力》
昆虫は複眼だけでなく、種によって数の異なる単眼も持っています。昆虫の単眼の焦点は合っていないため、視力には寄与しませんが、偏向フィルターの役目をしています。
ここで、偏向とは一つの方向にそろった波の光のことです。
偏向フィルター入りの眼鏡をかけると、不要な波の光をカットして、見にくいところが見やすくなります。
例えば、白一色で見にくいスキー場のゲレンデでも、凸凹しているコブが強調さるようになります。
また、偏向フィルターを使って空をみると、場所によって明るさが違って見えます。
これは、太陽の動く位置に応じて変化する偏向パターンがあるためです。
この偏向フィルターの機能を備えた昆虫(ミツバチ)は、青空が一部でも見えれば、偏向パターンから太陽の位置を判別できます。そして、太陽の位置が分かれば、巣の方向が判ると言われています。
このように、人の眼よりも複眼の視力は落ちますが、昆虫は、複眼以外の機能で視力の精度を補っているのでしょう。
まとめ
昆虫は小さい体のため、単眼(1枚レンズ)では焦点距離を確保できません。そのため、やむを得ず複眼を選んだのでしょう。ただし、複眼には、広角で見ることができる、紫外線を見ることもできる等の優れた機能もあります。
また、昆虫は複眼の粗い視力を補うため、単眼の偏向という機能も使っていました。
昆虫の単眼は、焦点距離が不足して、ボンヤリとしか見れませんが、単眼を偏向機能として使って、複眼の精度を補っています。