「無花果」と書いてイチジクと読みます。イチジクの花は、実の中にあって見えないからです。そんな、イチジクは虫媒花ですが、受粉をしてくれる、コバチとの共生関係は、かなりこじれています。植物と、小さな昆虫との共生関係を知るうえで、丁度良い題材です。
イチジクには花がないの?
イチジクは漢字で書くと「無花果」と書きます。イチジクの花は実の中に咲いて、外からは見えないからです。
イチジクの実のようなものは、専門用語では「花嚢(かのう)」と言われるものです。実のようなものという変な表現は、最後まで読むことで分かります。少しだけお付き合い下さい。
イチジクの実は、先端の中央付近が穴のように割れていて中には、もじゃもじゃした毛のようなものがあります。このもじゃもじゃしたものがイチジクの花です。最近では、スーパーマーケットなどでも販売されているので、見ることもできます。ぜひ、確認してください。
イチジクのオスとメスの木に成る花嚢とは?
イチジクにはオスの木とメスの木があります。
そんな植物は他にもあります。普通は、実がなるのがメスの木で、実がならないのがオスの木でしょうが、イチジクの雌雄の木は、両方とも実を付けます。
すみません、正しくは実ではなくて、実のようなものを付けるという表現が正確です。先ほどの花嚢(かのう)のことです。
これは、イチジクの花粉を運んで受粉の手助けをしてくれる小さな虫との駆け引きの歴史から生まれたのでしょう。
イチジクの受粉
イチジクの受粉方法は、野生のイチジク(イヌビワ)の実を調べると分かりやすいでしょう。
イヌビワを採ってきて、半分に割ると小さなハチ(イヌビワコバチ)が、いっぱい入っていますが、このイヌビワコバチは、イチジクの受粉・交配の手助けをする昆虫です。
イチジクとイヌビワコバチ(以下、コバチと記載)はお互いに無くてはならないものですが、その関係は、かなり緊張感のあるものでした。
コバチの産卵と幼虫の寄生
春から初夏にかけて、コバチの幼虫は、オスの木のイチジクの実(花嚢)の内部で羽化します。
この時、少しだけメスよりも先に生まれるオスは、メスが羽化するのを待ちかまえていて、イチジクの実の中で交尾します。
その後、メスは、別の花嚢(かのう)を目指して飛び立ちますが、オスは、花嚢(かのう)の中で、メスが飛び立つ手助けをした後で生涯を閉じます。
《コバチの産卵》
メスは、周囲にある別の木の花嚢(かのう)の中に入って、花柱に産卵管を入れて、種子になる子房に産卵します。その後で、体に付いた花粉をメシベにつけて受粉させ、花嚢内で死んでしまいます。
《幼虫の寄生》
子房内に産み付けられたコバチの幼虫は、産み付けられた場所に寄生して、実から栄養を取りながら、翌年の春の羽化を目指して成長します。
これでは、コバチの子孫を作る手助けをしているだけでイチジクの子孫は育ちません。
そのため、イチジクは、これに対抗することを考えました。
イチジクの反撃
イチジクには、オスとメスの木があります。どちらにも花嚢(かのう)がついていて、その中にはオバナとメバナもあります。
そのため、コバチは、オスの木か、メスの木か分からないまま産卵してしまいます。
しかも、イチジクのオスとメスの木では、花柱の長さが異なっていて、花柱の長いオスの木では、コバチの産卵管が種子になる子房に届かないようになっています。
これに対して、イチジクのメスの木では、コバチの受粉・交配によって、実をつけることができるだけでなく、種子になる子房にコバチが寄生していないため、実が育ちます。
イチジクのオスの木では、花嚢(かのう)はできますが、子孫を残す実はできません。受粉していないからです。
つまり、イチジクのオスの木に出来る花嚢は、コバチをだますための見かけの実でした。
ポイントのまとめ
イチジクとコバチの関係は複雑でしたが、本音ではイチジクに寄生したいコバチと、コバチに受粉だけをしてもらいたいイチジクとの共生の関係です。
共に生きると書いて共生ですが、このケースと同様に、植物と昆虫の共生関係は、概ね、生きるか死ぬかの厳しい関係です。