植物は、自分で移動できないため、タネにアリの好きな食べ物を付けて巣まで運んでもらう方法を考えました。アリによる種子分散共生と言われる手法です。記事では、具体的な事例と学者が想定した理屈等を紹介しています。植物のしたたかさが伺えます。
アリが植物のタネを運ぶ理由
子供の頃に、アリが植物のタネのようなものを運んでいたことを思い出しました。
調べてみると、アリは植物のタネをあちこちに分散して運ぶ代わりに、植物から栄養をもらっていました。その内容を紹介します。
アリによる種子分散共生とは?
確かに、アリは植物の種を運びます。ただし、アリが運んでいたのは、植物のタネに付いているエライオソームというゼリー状の物質を食べるためです。
アリは、植物のタネを巣穴に持ち帰ると、タネとエライオソームをわけてエサにします。但し、アリが食べるのは、エライオソームです。そのため、タネは巣の近くの、ごみ捨て場に捨てられます。
アリのゴミ捨て場に捨てられたタネは、そこで発芽します。自分では動くことのできない植物ですが、このようにアリにタネを運んでもらって、新しい場所で新芽を生育させることをします。
これが、アリによる種子分散共生と呼ばれるものです。
エライオソームとは?
植物の種に付けるエライオソームとはどんなものなのでしょう。
エライオソームは、グルタミン酸などのアミノ酸や、ショ糖などの糖、及び、オレイン酸などの脂肪酸を含んだゼリー状の物質です。
このようなエライオソームは、アリを誘引します。
では、エライオソームは、どんな植物のタネに付いているのでしょうか。
エライオソームをタネに付ける植物
エライオソームをタネに付ける植物は、スミレ科、ユリ科、ケシ科、アオイ科、シソ科、カタバミ科等、およそ200種程もあります。
種子分散共生をする理由
考えてみると、種子分散共生という行動は、アリにとっては、エサを探して巣に持ち帰って、不要なごみを廃棄するだけです。つまり、アリは特別な行動をしていません。
しかし、植物は種子分散共生のために、タネに特別な栄養分を付けることまでしています。そんなことまでするには特別な理由があるはずです。
次の内容は、植物学者が想定した理由です。
《乾燥地帯の植物のメリット》
乾燥地帯では、アリ分散の植物は多いです。その理由は、アリのゴミ捨て場は、他の乾燥した地面よりも種子が芽生える栄養条件が良いためと説明されています。
これは、素人が考えても、納得しますが、栄養が十分にある日本の雑木林には当てはまらないでしょう。
《温帯林での植物のメリット》
日本の雑木林と同様に栄養素に富んだ温帯林の植物では、アリ分散のメリットはあるのでしょうか?
次のように推論されています。
親植物の近くでは、タネを捕食する動物や虫が目を光らせています。でも、「アリに運ばれたタネは、捕食者から離れた場所に逃れられる」という理屈です。
では、捕食者から狙われない程、小さなスミレのタネなどは、何故、アリ分散をするのでしょうか。
《スミレ科などの植物のメリット》
スミレは、日の当たる明るい場所を好む植物です。アリの巣も明るい場所にあるため、その付近に捨てられるのは好都合だという理屈です。
まとめ
植物は、アリがタネを運んでくれる仕掛けとして、エライオソームという栄養素をタネに付着させていました。
そしてアリは、植物のタネに付けられた栄養素(エライオソーム)を食べるために、植物のタネを巣に運んでいました。
植物がタネに栄養素を付着させてまでして、アリにタネを運んでもらう種子分散共生をする理由は、植物学者が推論しているような、さまざまな理由があるのでしょう。
単純に、親と同じ場所で育つと、何かあった時に、全て絶滅するリスクがあるので、危険分散したいと考えているのかもしれません。
実験観察によると、日本のクロヤマアリなどの普通のアリは、エライオソームの付いているタネに寄ってきて巣に持ち帰ります。
アリは、単独でタネを運ぶだけでなく、集団で運ぶ場合もあります。そのため、エライオソームが付いているアケビの実のような大きなものでも運んでしまうと推測されています。
まあ、理由はともかく、植物のしたたかさを感じざるを得ませんね。